顔馴染みの本屋さんがある。
最寄駅の近くのこじんまりとした本屋だ。
商売は成立しているのだろうか?と不安になる時もあり、
二週間に一回程度、足を運んでいるうちに、店長さんが話しかけてくれるようになった。
大抵の場合、
「こんなのも読むんですね」
とか、
「これが好きだったら、これもいいかもしれません」
といった、わかりやすいありきたりな書店員と客の会話をするのだけれど、
この前行った時、なかなかエキサイティングな発言をいただいた。
僕が、とある小説家の本を買ったのだけれど、
店長さんが、レジでじっと本を見つめながら、
「この人の本って、こんな事言っちゃあれですけど、面白い時はめちゃめちゃ面白いのに、つまらないときはめちゃめちゃつまらないですよね。」
今まさに、とある小説家の本を買おうとしている僕に対してである。
・・・
”めちゃめちゃつまらないですよね!”
売り物を卑下する店員って、あんまりいないな、とその時、思ったのだけれど。
僕自身も、そのとある作家さんに対して、めちゃくちゃつまらない作品があるイメージだったので、
「そうなんですよね笑」
と反応していた。
・・・
共感はプラスの側面であっても、マイナスの側面であっても、
仲間意識を生むのである。
・あのアイドルが可愛い
・あのアイドルがムカつく
との話題は、共感さえ土台にあればどちらにせよ話題としては盛り上がる。
二人で映画を観に行ったとして、
大事なのは、映画が面白かったか?よりも、
二人の映画に対する意見が一致する事なのではないだろうか。
そんなことすら思ってしまう。
僕自身、誰かと映画を観に行った時に、
一番気にしてしまうのは、一緒に行った相手が映画についてどう思ったか?
なのである。
そういう意味では、
独りで映画に行った方が純粋に楽しめるのだけれど。
話は少々脱線したが、
店長さんがとある作家に対して放ったコメントは、
僕の中ではしっくりくるものがあって。
プラスの側にも、マイナスの側にも、語れる土台を持った時に、
その空間は心地良いものになるのだと思う。
ちなみに、その時買った本は、めちゃめちゃつまらない側の作品であったが、
その事を店長に告げるほどの勇気はまだ持ち合わせていない。