太っているから肉子ちゃん「漁港の肉子ちゃん」
"やわらかい"っていいな。
そんな事を思った。
この小説は全体的に"やわらかい"。
やわらかいものといると人は安心する。
読んでいて安心感に包まれる。
僕自身、西加奈子さんは2作目。
前に読んだ時も、同じようにやわらかさを感じた。
良き作風なり。
「漁港の肉子ちゃん」
本書の主人公は、肉子ちゃんである。
もちろん、本名ではない。
あだ名である。
さて、あだ名が肉子ちゃんと言われると・・・
(※例えば、娘が肉子ちゃんと呼ばれていたらどうか?)
①いじめられている。
②愛されている。
のどちらかであるのは想像に難くない。
・・・
本作の主人公 肉子ちゃんは、②の愛されている。である。
ご安心を。
この肉子ちゃんのキャラクターが良い。
まん丸に太った明るい38歳だ。
冒頭を引用する。
肉子ちゃんは、わたしの母親だ。
本当の名前は菊子だけど、太っているから、皆が肉子ちゃんと呼ぶ。
この冒頭はインパクト大だ。
何故なら、"太っているから、肉子ちゃんと呼ぶ"なんてストレートすぎる話だからである。
メジャーリーガー渾身の一球ぐらいストレートである。
体型はデリケートな話題であると思うが。
肉子ちゃんはそんな事を気にもしない。
とにかく明るい。
それでいて、まぁ、騙されやすいのである。
恐ろしいほどに男運がない。
出会った人たちは例えば、こんな男たちだ。
・多額の借金を肉子ちゃんに残して逃げた男。
・自称学生の男。昼は麻雀パチンコ/夜は肉子ちゃんが貢いだ金で風俗。
・妻と子供がいて、別れるために慰謝料が必要とせびる男。
要するに、糞野郎どもである。
さて、肉子ちゃんの性格を伝える良いエピソードがある。
別れるために慰謝料を要求する男が300万を欲しがったの工面している時。
・・・
男に新しい子供ができた。
この時ばかりは、それを知った肉子ちゃんが逆上。
男の住んでいる家に乗り込もうとしたそうな。
・・・
だが、男の家の目の前に、子供用の自転車が置いてあるのを見て。
あっさりと踵を返した。
「子供には、罪はないからな!」
との事。
果てしなくいい人。
さて。
本書は、そんな肉子ちゃんと娘であるキクりんの人情物語である。
ちなみに、娘であるキクりんは肉子ちゃんと全く似ていない。
かしこくてかわいい小学5年生である。
そんな母子のコントラストが楽しい作品だ。
あらすじを引用。
男にだまされた母・肉子ちゃんと一緒に、流れ着いた北の町。
肉子ちゃんは漁港の焼肉屋で働いている。
太っていて不細工で、明るい・・・・
キクりんは、そんなお母さんが最近少し恥ずかしい。ちゃんとした大人なんて一人もいない。それでもみんな生きている。
港町に生きる肉子ちゃん母娘と人々の息づかいを活き活きと描き、そっと勇気をくれる傑作。
読むと暖かい気持ちになれる。
騙されたっていいじゃない。
やわらかく精一杯生きていこう。