「影武者徳川家康」 上・中・下 隆慶一郎
この小説は"ガツン!!!!!!"となる。
まず、いきなり徳川家康が殺される。
関ヶ原の戦いの最中に、敵の忍びに暗殺されるのである。
ん?フィクションか?と思うかもしれない…。
ご存知の通り徳川家康は関ヶ原の戦いで勝利し、その後に江戸幕府を開いた。徳川家康が死んだはずがない…と。
違うのだ。
本書は、徳川家康は関ヶ原の戦いで死んだが、その後は影武者が"徳川家康"に成りきって采配を振るったとする。
そして、その後の江戸幕府を開くまで、影武者はそのまま徳川家康として生きたとする。
スゴイのは、この荒唐無稽とも言えるストーリーが史料に基づいたものである点。
・子供を溺愛するようになった。
・性について。年増好みだったのが、娘より若い女を好きになった。
等。
これだけだったら嗜好が変わっただけのようにも思えるが…。
以降、歴史上においても不可思議な動きをしていたという。
確かに、大阪冬の陣・夏の陣は家康が行ったとは思えない程に強引な手口であったし…。
言われてみると…と納得してしまう筆力がある。
筆者は"家康に惹かれるのは悪女に惚れるのに似ている。共に正体が捕らえきれない"という。
"善かと見れば悪であり、悪かと見れば善である"とする。
筆者は徳川家康に惹かれていて、色々と考えた上でついに一冊の本に出会う。
そこで、直感した、関ヶ原の戦いで家康が死んで、影武者になったとしたら多くの疑問が解決される…と。
あとがきに書いてあるが、この部分は滅法面白い。
作家は歴史の行間に想像力を注入させる。
そこから広がる物語の裾野は、壮大で魅力に富んだもの。
関ヶ原の戦いで徳川家康が殺された?そして、それが史料に基づくものであるストーリーで収斂される。
おもしろくないわけがない。
家康が死んでいて、影武者だったら…
・息子である秀忠との関係は?
・豊臣秀吉の子供、秀頼との戦いは?
・何故?公表しなかったのか?公表できなかったのか?
・徳川家康に心服した者は、家康の死を知ってどう行動したか?
…
そして、影武者(それも徳川家康たる人物の)たるものの苦悩。
読みどころ満載。
それにしても、影武者の有無はともかくとして。
こんなストーリーを書かせる徳川家康の人生の懐の深さはハンパではなく。
世界史上でみても、畸形とする表現される泰平の世"江戸時代"。
基礎を造った男の傑物感は尋常では無いと、つくづく思う。
歴史小説として、間違いなく今年のNo.1。
あと、登場人物の男たちがカッコよすぎて惚れるので要注意。
自らの生命を燃やすような生き方って…素敵よね。