「脳のなかの幽霊」
V・S・ラマチャンドラン
インパクト大。
考えた事もないような事が事例を次々と知る事になる。
僕はそこに人間の脳の脆さを垣間見たような気がした。
本書は脳科学の話である。
神経科医、神経科学者であるV・S・ラマチャンドランが様々な神経疾患を取り扱った本である。
紹介を引用する。
切断された手足がまだあると感じるスポーツ選手、自分の体の一部を他人のものだと主張する患者、両親を本人と認めず偽者だと主張する青年など、著者が出会った様々な患者の奇妙な症状を手掛かりに、脳の不思議な仕組みや働きについて考える。
分かりやすい語り口で次々に面白い実例を挙げ、人類最大の問題に迫り、現在の脳ブームのさきがけとなった名著。
現代科学の最先端を切り開いた話題作ついに文庫化。
ご紹介の通り、様々な症例がでてくる。
中でも広くに知られているのが、幻肢であろう。
(と言っている、僕は本書を読むまで知りませんでしたが・・・)
"幻肢"とは、手足を切断した人が、切断したはずの手足から痛み等を感じる事である。
と、さらりと書いてみたが、不思議で恐ろしい話である。
そんな事あるの?と思ったのが正直な印象。
ただ、具体的な症例に勝るリアルさはない。
筆者であるV・S・ラマチャンドランの考え方がよい。
100の平均値よりも1の具体的事例を優先する。
手法、チャレンジ精神、切り口において、非常におもしろいものばかり。
それにしても、脳たるものはなんとも曲者である。
数々の症例を読んで、僕は脳の危うさを感じた。
一言でまとめると、脳は自分を正当化しようとする。
つまりは、間違っている事でも脳にとって都合の良い見方をしてしまうのである。
数々の症例で共通していたのは、患者が自分は間違っていないと信じてやまない事である。
周囲からすると、"そんなバカな?"と思うような事を本気で信じているのである。
僕たちがみている世界は脳がつくりあげている。
これは一つの事実であろう。
今、見ている僕の世界は脳がつくりあげている。
脳がそう思ったら、その通りなんだよね。どうあがこうとも。
視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、あらゆる感覚が情報を収集しても、判断するのは脳。
五感(情報収集者)に対し、脳(判断者)である。
勝ち目がない。
部下がどれだけ有益な情報を集めても、部長が"No!"と言ったらおしまいなんですよ。
そして、本書を読んでいると、脳たるものが、全体のシステムを崩壊させうる末端の情報を切り捨てる事がよくわかる。
感覚を疑う事はできる。
だけど、脳を疑う事はできるのか?
それは、世界をつくりだしているものを疑う事になるのだけど・・・
それって、宗教的な世界では神を疑うのと同じような事になる気もした。
本書は脳科学ブームの火つけ役であったとも。
・脳の話に興味がある人。
・自分の見えている世界を疑ってみたい人
・不思議な話が好きな人
におすすめする。