「感染症と文明」
新書の魅力は知らぬ分野の話を手軽に吸収できる事。
"感染症"をテーマとした本書はまさに新書の鑑である。
読みやすくて内容が充実。
間違いなく知的興奮を味わえる。
"細菌"と"ウイルス"って何が違うの?程度の知識レベルで充分理解できる。
「感染症と文明」
"文明は感染症のゆりかご"である。
本書の中で、"文明は感染症のゆりかごである"と説かれる。
"文明と感染症"。
我々は文明の発展で多くの感染症に対抗する術を身につけた。
例えば、撲滅宣言がなされた天然痘が良い例であろう。
もし、感染症に罹患しても、医療機関が発達により人命は救われる。
そんな中で暮らしていると、"文明は感染症のゆりかご"との言葉に一瞬戸惑う。
ただ、読み解く内に成る程、と納得する。
一言でまとめると、感染症が増大した起源が文明の出現にある。
つまり・・・
文明の成立により人類が"定住生活"を始めた事がポイントとなる。
人類が"定住生活"を始めた事で
①家畜を育てるようになった。
②排便が身近な事となった。
③"①+②"の結果、人口が増大した。
家畜、排便は感染症の温床である事は語るに落ちる。
人口増大により、感染する確率が上がる。
このサイクルにより、感染症は人類の中に定着していった。
文明がなければ感染症はここまで拡散しなかった。
ただし、逆に文明のおかげで助かった命も多い。
大局的な見方をすると、"自分で蒔いた種を拾っている"のが感染症と文明の関係とも言える。
このような見方は、非常に新鮮であり考えた事もなかった。
短絡的に、移住生活を繰り返していれば人類が感染症にここまで苦しめられる事はなかったのである。
では、文明はどこに行こうとするのか?
文明と感染症と考えた時、おそらく多くの人が"文明は感染症に対抗するもの"であると考えるだろう。
確かに、感染症の起源は文明の成立にあった。
だが、文明の発展が感染症に対抗する術となっているのは事実である。
本書の中盤にて、ヨーロッパで大流行したペストの話が紹介される。
現代の日本では考えられないような猛威。
1日に10,000人もの人が命を落とすような大流行。
抗生物質の発見により、感染症による死者は大幅に減ったのである。
あくまで、文明がもたらした恩恵であるのは間違いない。
単純に右肩上がりのグラフで考えた時、文明が感染症に打ち勝つ(つまり、すべての感染症を撲滅する日)事ができる、と信じるべきなのか?
"もし、感染症を撲滅できるとしたら?"
もちろん、感染症により苦しむのは御免である、と思うのだが・・・
ここに大きな落とし穴がある。
感染症は人類の免疫システムにおいても大いに重要な役割を担ったのである。
感染症を"持つ者"と"持たざる者"の闘いである。
※ダイヤモンド「銃・病原菌・鉄」により深い説明あり。
簡単にまとめると。
スペインがインカ帝国を攻めた時・・・
スペイン側は高度な文明(つまり、感染症との深い関係)があったのに対し、インカ帝国はなかった。
結果的に、スペイン側が免疫を取得している感染症により、インカ帝国の人々は次々と死んでいったとの話である。
つまり、感染症に罹患し、免疫を取得できない事は一つのリスクでもあるのだ。
そこから想起される結論は、"感染症を撲滅したとすると、人類は免疫を失う"のである。リスクがある事はインカ帝国の歴史が示している。
これらの事実を踏まえて、筆者は"感染症と共生する"事を提案する。
本書を読まずして、"感染症と共生する"と聞いても、首を傾げるばかり。
ただ、読み終えた頃には一理あると思うに違いない。
本書を読み終えて、イスラムのISと重なる部分を感ずる。
パワーによる撲滅が新たな脅威を生み、イタチごっこが始まる。
そこでの落とし所が"共生"。言うは易く行うは難し、である事はわかっているが。