さよならの握手、残る手の温もり「ツナグ」
もう一度、手をつなぎたい・・・
それが、最後であろうとも。
つないだ手をまた離さなければならないとしても。
最後にもう一度だけ。
さよならの握手・・・
かすかに手の温もりが残る。
そんな風に心に残る小説である。
「ツナグ」
辻村深月さん
一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者」。
突然死したアイドルが心の支えだったOL、年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子、親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員…ツナグの仲介のもと再会した生者と死者。
それぞれの想いをかかえた一夜の邂逅は、何をもたらすのだろうか。
心の隅々に染み入る感動の連作長編小説。
本書のテーマは。
死者との再会である。
ただし、人生の中で"一度だけ、一人だけ"である。
例えば、亡くなった両親に会いたいと思っても、父 or 母?の究極の選択を迫られる。
どちらか一人しか会えないのだから。
大人版 "お父さんとお母さん、どっちが好き???"である。
しかも、一生に一度だけ。
父親に会ってしまったとすると、その後は恋人や母親に会う事はできないのである。
また、死者も同じく"一度だけ、一人だけ"しか会えない。
手順としては。
・生者が死者に会いたいとリクエストする。
・死者は受け入れる。
である。
死者は生者のリクエストを"一度だけ、一人だけ"しか受け入れられない。
例えば、死んだ父親が、妻と子供の二人からリクエストを受けたとして。
妻 or 子供のどちらかしか会えないのである。
本書を読むと。
誰もが自分だったらどうするだろう?と思うに違いない。
もし、誰か、亡くなった大切な人にもう一度会えるとしたら・・・?
本書は、連続短編集である。
死者に再会できるとの設定。
それを仲介する者として存在する使者の存在を中心に物語が進む。
・・・
様々な立場の人が、色々な思いを抱えて。
あらすじからそのまま引用する。
・突然死したアイドルが心の支えだったOL
・年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子
・親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生
・失踪した婚約者を待ち続ける会社員
皆、会う理由は様々である。
十人十色の思い。葛藤。願い。
・・・
"会う事を願った生者"
"その願いを受け止めた死者"
二つの内に秘められた思いが交錯した時、物語が生まれる。
それが、"ツナグ"である。
さて、最後に読んでみないと納得いただけないかもしれないが。
"ツナグ"とは一瞬の事であり、一夜の邂逅に過ぎない。
故に冒頭。
もう一度、手をつなぎたい・・・
それが、最後であろうとも。
つないだ手をまた離さなければならないとしても。
最後にもう一度だけ。
さよならの握手・・・
かすかに手の温もりが残る。
そんな風に心に残る小説である。
と書いた。
僕は、死者との邂逅がさよならの握手である事に心動かされた。
かすかに残った手の温もりを大切に生きていく。
思い出を乗り越えて次に進むとはそういう事なんだろうなぁ・・・。
僕のお気に入りは
・失踪した婚約者を待ち続ける会社員の話。
婚約者である日向キラリさんの思いについてである。
僕自身、最近の境遇もあってか、心に沁みた。
しばらく辻村深月さんの本を読んでみようと思う。