僕も気づいていなかったけど。
僕だけが知っていた。
貴方が持っていた"しるし"。
はっきりと。
たしかに。
そこにあった"しるし"
僕はその"しるし"を知っていた。
・・・
そして。
その"しるし"に出逢うために生きていた。
いわゆる、"運命の人"の話である。
ただ、運命の見せ方が絶妙な作品。
「ほかならぬ人へ」
あらすじを引用。
「ベストの相手が見つかったときは、この人に間違いないっていう明らかな証拠があるんだ」…妻のなずなに裏切られ、失意のうちにいた明生。
半ば自暴自棄の彼はふと、ある女性が発していた不思議な“徴”に気づき、徐々に惹かれていく…。
様々な愛のかたちとその本質を描いて第一四二回直木賞を受賞した、もっとも純粋な恋愛小説。
※あらすじの引用では"しるし"="徴"ですね。個人的にひらがながしっくりきたので。
僕自身の話をすると。
結婚もしていないし。
永遠に忘れられないような大失恋をした事もない。
・・・
そのため、"運命の人"的な論は、
・すがれば身動きが取れなくなって独身街道まっしぐらと悲観的
・今までないのだから、どうせないのだろうと懐疑的
程度の気持ちしか持ち合わせておらず。
"運命の人"をテーマにした小説に対して
"共感して涙する"等との事は無いタイプである。
それを前提としても。
非常に良い小説と思いて。
冒頭に
僕も気づいていなかったけど。
僕だけが知っていた。
貴方が持っていた"しるし"。
と書いたのだが。
肝はここにあり。
本作の魅力は"運命のしるし"の見せ方にある。
雷に打たれたような一目惚れではなく。
図書館で同じ本を手に取ろうとしたような偶然でもない。
いわゆる、"運命"と言われて思いつくシンプルな表現ではなく。
もっと本質的で、その人自体の存在そのものに近い"運命の見せ方"
運命の人を信じる、信じないの話で片付けられるような物語ではない。
小説ならではの表現であり、心に残る。
こういう見せ方もあるのだな、と。