「あこがれ」清か、玲瓏、澄明な心。紡がれる言葉はどうしてかくも美しいものなのか。
「ああ、なんという多幸感。
ほとんどアニメーション映画のような疾走感と、小説にしか為し得ない感情のジャンプに陶然とする。
どうしたって、これは泣いてしまう。」
これは、かの有名な「君の名は。」を世に送り出した新海誠さんの本作を紹介する帯の言葉である。
これを読んだだけで、本書を読みたくなる。
あこがれ
本を紹介する試み。
書評みたいな事をこのブログでやっているのだけれど。
大学時代の恩師に教えてもらった事で、
”書評は読んだ人を本屋に行かせて、その本を買わせれば勝ち”
と教えられた事があり。
帯のコメントも同じであろう。
手に取った人が買いたくなるコメント。
お見事。
おかっぱ頭のやんちゃ娘ヘガティーと、絵が得意でやせっぽちの麦くん。
クラスの人気者ではないけれど、悩みも寂しさもふたりで分けあうとなぜか笑顔に変わる、彼らは最強の友だちコンビだ。
麦くんをくぎ付けにした、大きな目に水色まぶたのサンドイッチ売り場の女の人や、ヘガティーが偶然知ったもうひとりのきょうだい…。
互いのあこがれを支えあい、大人への扉をさがす物語の幕が開く。
川上未映子さんの作品は、
言葉の温かさがあって。
繊細さがあって、心に刺さる。
いや、心に残る、残存する。
刺さった言葉は溶けてなくなる。
そして、自分の中に山積する。
2月の朝に、
雪が積もっているのを見る時、
最初に解けずに、残った雪の存在を思う。
文学の力は、その最初の雪に似ている。
心に残り、自分の軸の、何か大切な芯の部分の、
道標。
最初に解けない雪であり、
積もるための大切なものである。
繰り返し、自分の中、奥底に浸透させるように読みたいと思う。
和紙を制作するかのように、丁寧に、柔らかく。
本作は、子供の話である。
男の子の麦くんと、
女の子のヘガティーの物語。
一部と二部の構成で。
麦くんとヘガティーが主人公の話として語られる。
子供の心に瑞々しさを感じる時はいつだろうか。
透明さの純度。
清か、玲瓏、澄明な心。
・・・
ああ、
なんでこうも紡がれた言葉を大切にしたくなるのだろう。
川上未映子さんは、
子供の言葉をどうしてこうも巧みに表現できるのか。
(森絵都さんを読んだ時も同じような事を思った。)
本作を読んだのは2回目。
何度も読みたくなる本であり、
大切に保管したいと思う。