のらねこ日記

読書、映画、考え事など。色々なテーマを扱える人になりたいです。

「あこがれ」清か、玲瓏、澄明な心。紡がれる言葉はどうしてかくも美しいものなのか。

「ああ、なんという多幸感。

ほとんどアニメーション映画のような疾走感と、小説にしか為し得ない感情のジャンプに陶然とする。

どうしたって、これは泣いてしまう。」

 

これは、かの有名な「君の名は。」を世に送り出した新海誠さんの本作を紹介する帯の言葉である。

これを読んだだけで、本書を読みたくなる。

 

あこがれ

川上未映子

f:id:anfield17:20200730222958j:image

 

本を紹介する試み。

書評みたいな事をこのブログでやっているのだけれど。

大学時代の恩師に教えてもらった事で、

”書評は読んだ人を本屋に行かせて、その本を買わせれば勝ち”

と教えられた事があり。

帯のコメントも同じであろう。

手に取った人が買いたくなるコメント。

お見事。

 

おかっぱ頭のやんちゃ娘ヘガティーと、絵が得意でやせっぽちの麦くん。

クラスの人気者ではないけれど、悩みも寂しさもふたりで分けあうとなぜか笑顔に変わる、彼らは最強の友だちコンビだ。

麦くんをくぎ付けにした、大きな目に水色まぶたのサンドイッチ売り場の女の人や、ヘガティーが偶然知ったもうひとりのきょうだい…。

互いのあこがれを支えあい、大人への扉をさがす物語の幕が開く。

 

川上未映子さんの作品は、

言葉の温かさがあって。

繊細さがあって、心に刺さる。

いや、心に残る、残存する。

刺さった言葉は溶けてなくなる。

そして、自分の中に山積する。

 

2月の朝に、

雪が積もっているのを見る時、

最初に解けずに、残った雪の存在を思う。

文学の力は、その最初の雪に似ている。

心に残り、自分の軸の、何か大切な芯の部分の、

道標。

最初に解けない雪であり、

積もるための大切なものである。

 

繰り返し、自分の中、奥底に浸透させるように読みたいと思う。

和紙を制作するかのように、丁寧に、柔らかく。

 

本作は、子供の話である。

男の子の麦くんと、

女の子のヘガティーの物語。

一部と二部の構成で。

麦くんとヘガティーが主人公の話として語られる。

 

子供の心に瑞々しさを感じる時はいつだろうか。

透明さの純度。

清か、玲瓏、澄明な心。

・・・

ああ、

なんでこうも紡がれた言葉を大切にしたくなるのだろう。

 

川上未映子さんは、

子供の言葉をどうしてこうも巧みに表現できるのか。

森絵都さんを読んだ時も同じような事を思った。)

 

本作を読んだのは2回目。

何度も読みたくなる本であり、

大切に保管したいと思う。