「横道世之介」
忘れてしまった思い出は幸せで楽しくて、時々かなしい。
思い出すとクスリと笑いたくなる。そんな幸せ。
陽だまりでのらねこがとても幸せそうに昼寝をしている情景がよく似合う本。
(猫の話は一切出てこないがね)
横道世之介とは主人公の名前である。
九州から上京してきた大学生。
名前の由来しか話す事がない(この名前の由来がおもしろい)と語る普通の大学生だ。
右も左もわからない東京の大学生活が始まるわけだが・・・
ひょんな事からサンバサークルに入ったり、お嬢様と恋愛をしたり、友達が大学を中退して出産したり・・・多忙な生活を送る。
まぁ、要するに、青春小説である。
読み終えた感想。
まず、僕は、横道世之介が大好きになった。
"愛すべき押しの弱さと隠された芯の強さ"と表現されているが、まさにその通り。
"ああ、こんな奴に会ってみたい"と思える青春小説にハズレはないと思うわけである。
世之介の魅力。
どう説明したものか?と、読み終えた後からずっと思っていたのだけど、「ああ、香りなのかな・・」と思う。
世之介は"香り"みたいなのだ。
"香り"たるもの、言葉で説明するのは難しく。
いい匂いがするもの、と言ってしまうとなんとなく味気ない。
辞書をみると、"いつも身辺に漂わせておきたいような、いい匂い"とある。
ああ、成る程と飲み込める部分もあるが、どうも腑に落ちない部分もある。
イメージは掴めるのだけど、具体的な話ではなく。
それを人物に当てはめて、"世之介は"香り"みたいなのだ。"などと言うのは、もはや曖昧模糊の妄言、説明放棄に等しいが・・・
そう思ってピンときてしまったのだからしょうがない。
世之介の存在は、誰かの人生において、優しい香りを残す。
そう、実体があるのではなく、どこかから香ってくるような・・・
忘れてしまっているかもしれないけど、どこか懐かしい香りである。
どうなんだろう?
僕自身、ここまで小説の登場人物を愛おしいような気持ちになった事はなかったかもしれない。
人の魅力は十人十色。
だけど、世之介の魅力は、とても愛おしくなる香りに満ち満ちている。
ああ、この小説を読んでよかった。