バカな男が愛おしく思える。「太陽の塔」森見登美彦
ある男が、大好きだった女の子にフラれた。
忘れられない。
思いが血流にのって全身を駆け巡り。
居てもいられなくなって、男はストーカーに走ったとする。
家の前で時々、待ち伏せしていたりするとする。
ある日、彼女の家の前で待っていた時、別の男に声をかけられた。
「彼女につきまとうのはもうやめろ!」
・・・
こんなコンビニで売ってそうな話があったとする。
実際に体験した事はないのだけど、一度は聞いた事のある話である。
男はどんな反応するかしらん?
って事になるのだが、まぁ、普通の神経で考えれば、男に理はない。
別の男が正しい事を言っているように思える。
まぁ、普通に考えたら新しい彼氏なんだろうな。
きっぱりと諦めますかね、と思う。
のだけど・・・
太陽の塔に登場する主人公の自己正当化能力は尋常ではない。
上記のエピソードを最終的に、"男に天誅を加えるのだ!!!”と友人と盛り上がるまでに至る。
とんでもなくバカな男の話である。
そして、ものすごくおもしろい男の話でもある。
「太陽の塔」
本書、主人公がおもしろい。
自分にまつわる事を全て正当化しようとする。
上記のエピソードから察するに、要はストーカーなわけだが、当の本人は"知的研究"であると胸を張っている。
しかも、胸の張り方が、オリンピックで金メダルを取った者かのように堂々としているから滑稽。
何でもかんでも正当化するものだからおもしろくてしょうがない。
それもまた、味のある語り口だから余計におもしろいのである。
ためしにストーカーを否定する独白を引用してみる。
「私にとって彼女は断じて恋の対象などではなく、私の人生の中で固有の地位を占めた一つの謎ということができた。
その謎に興味を持つことは、知的人間として当然である。
したがって、この研究は昨今よく話題になる「ストーカー犯罪」とは根本的に異なるものであったということについて、あらかじめ読者の注意を喚起しておきたい」
おおばか野郎である。
タコ殴りにしてスカイツリーに吊るした後で東京湾に沈めてやらなければ、性根は叩き直せないかもしれない。
だけど、ハマるんだな〜これが。
愛車(自転車)にまなみ号と名付けて、大切にしているとの可愛い面もある。
(おそらく)違法駐車で撤去された思い出をシェイクスピアの劇であるかの如く語る。
再会した時の「もう放しはしない」と抱きしめたと思い出す姿は純愛ラブストーリーの極みである。
駐輪所で愛を叫ぶ。
ストーリーは単純。ただのフラれた男の話。
彼の独特の自己正当化理論がおもしろくてしょうがない。
物語が終盤、クリスマスに向かっていくのがこれまた味わい深い。
森見登美彦さんの作品は2作目なのだが、どうにも夏目漱石さんの匂いを感じる。
四方八方ににやけてしまう文章があるのです。
ゴキブリキューブの話なんてもう、ニヤニヤ機関車が暴走です。
以下、個人的な意見だが。
誤解を恐れずに言えば、いや、結構共感できるんですよ・・・この主人公。
僕は、愛おしく思いました。
男目線と女目線は違うのかもしれないのだけどね。
この作品、かなり好きです。
おすすめします。
・夏目漱石の笑いセンスに共感できる人。
・何でもかんでも正当化したい年頃の人。
・失恋した人