のらねこ日記

読書、映画、考え事など。色々なテーマを扱える人になりたいです。

包み込まれたら、包み込んであげよう。 そうすれば、きっと世界はもう少しやさしくなるだろうから。「ワンダー」

築かれた城壁も、門を叩けば開けてくれるかもしれない。

登る事も、壊す事もいらない。

石だって投げなくていいし、兵器も必要ない。

高く高く築かれていたって、門を叩く勇気さえあれば、中に入れるかもしれない。

そして、その城壁があなたを守ってくれるかもしれないよ。

 

「ワンダー」

著者 R・J・パラシオ

訳者 中井はるの

 

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きっと、ふるえる

オーガストはふつうの男の子。ただし、顔以外は。

生まれつき顔に障害があるオーガストは、10歳ではじめて学校に通うことになった。

生徒たちはオーガストを見て悲鳴をあげ、じろじろながめ、やがて……。
全世界で300万部売れた、感動のベストセラー。 

 

すれ違う人が皆、顔を見てギョッとする。

主人公のオーガスト(愛称オギー)は顔に障害を抱えている男の子。

10歳になった時、学校に通い始める話。

どういう事が起きるか?何となく想像はつくかもしれない。

学校でいじめられるのだ。

・・・

子供は時に残酷だ。

違いは差別を生み。差別はいじめを生む。

 

誰も僕の体に触れようとしない。

陰口。

「ロードオブザリングのオークみたいだよな」

ネズミ少年、奇形、怪物、E・T・・・・

「ぼくがあんな顔だったら、自殺しちゃうよ」

・・・

 

オーガストの両親は苦悩する。

学校に行かせる前から危惧していた事。

両親が何度も何度も話し合ったであろう事。

愛するオーガストが学校に行って傷つくのでは、と。

それが現実になりかけているのを知る。

それでも、背中を押してやらなければならない苦しさ。

 

愛するものが傷つく事は自分の痛みでもある。

支える側もまた勇気が必要なのだ。

 

その中で、オーガストは少しずつ友情を育む。

ゆっくりと、でも、確実に。

萎れていた植物に水を与えて、ゆっくりと生命を宿していくように。

喧嘩もする、それでも、段々と。

学校での居場所を見つけていく。

 

本書は主人公であるオーガスト

友人となるサマー、ジャック。

姉であるヴィア。

ヴィアの友達であるミランダ。

ヴィアの彼氏であるジャスティン。

それぞれの視点から様々な思いが語られる。

 

中でも、姉であるヴィアの語りは印象に残る。

両親の気持ちが弟であるオーガストに集中する中で、姉として過ごしてきた日々。

子供はいつだって一番愛されたいはずなのに・・・。

弟の事で色々と言われる事もある。

「奇形の弟がいるヴィア」と。

 

そんなヴィアを支えたおばあちゃんの一言は"ナイス過ぎる"ので引用したい。

そのとき、おばあちゃんは秘密をうちあけてくれた。世界中でだれよりも、わたしが好きだって。

「でも、オーガストは?」

おばあちゃんはにこっとして、わたしの髪をなでた。なにを言おうか、考えているみたいに。

「オギー(オーガスト)もすごくすごく大好きよ」

とてもやさしい声だった。

「だけど、オギーには、大切に思ってくれる天使がいっぱいいるでしょう、ヴィア。

だからヴィアにはいつでもおばあちゃんがいるって覚えていてほしいの。わかったね、大事なおじょうさん?

おばあちゃんにはヴィアが一番だってこと、忘れないでちょうだい。」

 

包み込まれる、とはこういう事だ。

本書の中で、多くの人が包み込まれる。

暖かさは伝染するんだよね、人から人へと。

ヴィアがまたオーガストを包み込む・・・オーガストがまた・・・。

 

読み終えた時、熱いものが込み上げる。

飲み込んだストーリーが逆流してくるかのように。

何かが流れ出ようとするのを僕はグッと堪える。

こぼれ出るそうになる感情を大事に大事に心の中にしまう。

 

再び引用。

「オギー、いつどこにでも意地悪な人っているのよ。だけど、ママが信じているのは、それからパパも信じているのは、この地球上には、悪い人よりもいい人のほうが多いってこと。いい人たちがおたがいに見守った助け合ったりしているの。」

 

人は包み込まれたいし、包み込みたい生き物だ。

包み込まれたら、誰かを包み込んであげよう。

そうすれば、きっと世界はもう少しやさしくなるだろうから。

そんな事を思った。