"南アルプスの天然水"に魔法をかけて、黒髪の乙女にしたらこんな感じ。「夜は短し歩けよ乙女」
極上で、最高にポップな小説。
晴れ渡る7月の空の下、水水しい果樹園に冒険に行ったかのような気分になる。
フルーツに例えるなら、"さくらんぼ"かな。
"この小説はなんかかわいい"です。
「夜は短し歩けよ乙女」
もし、本屋にいって、この本が目に止まり。
"買おうしらん。"とふと立ち止まる事があるのなら。
・・・
"でもなぁ、この一冊で牛丼が二杯(※物価によりけり)食べられるしなぁ"と迷ってないで、手にとって、ヒラリヒラリとページをめくり・・・。
是非、解説を見て欲しい!!!
漫画家 羽海野チカさんの、これはこれはステキな解説が目に飛び込んできます。
一目惚れしたら迷わず買いましょう。
※ちなみに僕はこの解説をみて、羽海野チカさんの「ハチミツとクローバー」を読み始めました。破壊力恐るべし。
当然、中身も負けじ劣らずステキです。
あらすじを引用。
「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。
けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。
そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。
先輩と後輩の恋愛ストーリーである。
先輩が男。後輩が黒髪に乙女。
本書の魅力は・・・
この二人のキャラクターを好きになれるか否か?にかかっている。
印象的なシーンを引用する。
黒髪の乙女がボーッとするシーン。
※何故、ボーッとしたかは本書を読んでのお楽しみ。
もちろん私は普段から精神を研ぎ澄ましているような人間ではありませんが、その「ボーッ」は、「ボーッ」の中の 「ボーッ」、「世界ボーッとする選手権」というものがあれば日本代表の座も間違いなしと思われるほどに筋金入りのボーッであったのです。
そういうボーッの後、私はそわそわする自分を持てあまし、部屋にある緋鯉のぬいぐるみをぽかぽか叩いたり、むぎゅっと押しつぶしたりしました。
可哀想なのは緋鯉でした。まことに申し訳ないことです。
そうして緋鯉のバイオレンスな振る舞いをした後は、決まってグッタリしてしまうのでした。
黒髪の乙女を評したシーン。
たとえば、ここに、「鼻毛が一日に一メートル伸びる男」という誰が何の目的に作ったのかてんで分からん映画を観てさえ感涙する心優しい乙女がいて、お化け屋敷にぶら下がる蒟蒻に「おともだちパンチ」で立ち向かう闘志を持ち、「かつて京都と福井は一本の鉄道で結ばれていた」という途方もない法螺話にも真摯に聞き入る素直さで、しかも「万国大秘宝館」などという怪しい展示へ無理矢理乗り込もうとするほどの好奇心の権化であったとしよう。
しかもその乙女は清楚な佇まいにちぐはぐな、巨大な緋鯉を背負っている。
「鼻毛が一日に一メートル伸びる男」という誰が何の目的に作ったのかてんで分からん映画を観てさえ感涙する心優しい乙女"である。
これは"尋常ではない純粋さ"である。
「鼻毛が一日に一メートル伸びる男」の映画だぜ?
どうやったら泣けるのかを教えて欲しいもの。
ここでハッキリと言ってしまうと、純なる黒髪の乙女に弱いのだよ、男は。
純粋さが混じりっけなしであるからたまらない。
ストーカー行為を"奇遇ですねぇ"の一言で済ます黒髪の乙女。
そんなエピソードが本編のあちらこちらに散りばめられている。
・・・
"南アルプスの天然水"に魔法をかけて、黒髪の乙女にしたらこんな感じ。
"爽やかな皐月の風"が人間に変身して、黒髪の乙女になったらこんな感じ。
"蛍が住める環境"が突然変異で、黒髪の乙女に・・・
そろそろ止めておこう。
とにかく純なる黒髪の乙女である事が伝われば満足なり。
一方、先輩である男の方は?というと。
森見登美彦さん得意の惰弱な男である。
石橋を叩いて壊す、外堀を埋めすぎる男。
黒髪の乙女に近づきたく思うが、なかなか踏み出せぬ男。
二人のやりとりが心地良い。
森見登美彦さんの作品の中では一番バランスが良いと思う。
本屋大賞ノミネートもうなずける。おすすめ。
※個人的に、古本屋の章にでてくる少年が大好きです。