映画「この世界の片隅に」
本当に大切なものを前に言葉を失う時がある。
言葉にすると大切なものが溶けてしまうような感覚。
自分の外に出す事で、漏れてしまうかのような・・・。
とある映画を観て、昔の出来事を思い出した。
昔、ランニングをしていたら、たまたまホタルを見かけた。
僕は、ホタルを探していたわけではなく。
ただ一心不乱に走っていただけ。
なんとなく川沿いを走っていた時に見つけた、ほんのりと灯る光との邂逅。
そんな思いがけない偶然の灯火は、とてもとても綺麗だった。
美しくて綺麗だった。
この話。
なんとなく、胸の内に秘めた。
自分だけのお気に入りの風景を言葉で説明できる気はしなかったし。
何より、自分の内側に留めて起きたかったのである。
大切なものを宝箱の中に隠す子供のように。
そんな思いが重なる作品。
映画「この世界の片隅に」
今年、出逢った映画の中で一番大切にしたい。
いや、人生の中でも・・・。
素直にそう思えた映画。
こんな素敵な映画に出逢えるから、映画館に行くんだよ。
大切な映画を自分の言葉で説明するのは、ある種の緊張がある。
よって僕は酒の勢いを借りて、この文章を書いている。
とにかく観てよ!!!と言いたい気持ちを抑え。
なんとか映画の魅力が伝わると良いのだけど。
映画の舞台は広島の呉。
そこで、生きる女性のすずさんの人生を描く。
時代は昭和。
日本が戦争をしていた頃の話である。
主人公のすずさんは、ぼーっとしている人物で。
時々、抜けている所がある。
ドジっ子と言いますか。
健気、との言葉が似合う。
実に、可愛らしい女性である。
平和なシーンが続く。
戦争をテーマとした映画だが。
描かれるのはすずさんの人生である。
一人の健気な女性が生きる姿が描かれる。
戦争反対とか。
戦争が残酷であるとか。
そういう描かれ方ではない。
日常の積み重ね。
なんでもいい。
恋人におはようと言った朝でも。
家族にただいまと言った夜でも。
描かれるのは日常であり。
幸せの風景である。
一人の女性の人生である。
「みんなが笑って暮らせるのがええ」
劇中のセリフが胸に沁みる。
戦時中に笑って暮らそうとする人々の姿を描いた映画だ。
ただ、昭和20年。1945年。
その時に広島で何が起きたかを、我々は知っている。
そして、物語は着々と1945年に向けて進む。
戦争をテーマとした、お涙頂戴の話とは様相が異なる。
超満員だった映画館。
(結構、久しぶりの体験であった。全席埋まっている映画館の雰囲気が好き。)
所々のシーンで映画館が笑い声に包まれる。
観客の中に、幸せが共有される。
その笑い声は"すずさんを大切に思う観客の心"を表してた。
薄暗い映画館の中に暖かく明るい空気が生まれる。
優しい絵、声が積み重なり、儚い幸せが紡がれていく。
・・・
そして、観客は気づく。
紡がれた幸せの時間と対極に戦争が存在している、と。
故に、反戦のメッセージが染み渡るようにして心を震わせるのだ。
優しい世界観が秀逸。
音楽も素晴らしい。
いい映画だったなぁ、と心から思う。