恋と友情は人生を彩る。
とても美しく。
しかし、時に、狂おしく歪んだものになる。
恋と友情はいつだって人生の主役だが。
全てが美しい物語とは限らない。
「盲目的な恋と友情」
あらすじを引用。
タカラジェンヌの母をもつ一瀬蘭花は自身の美貌に無自覚で、恋もまだ知らなかった。
だが、大学のオーケストラに指揮者として迎えられた茂実星近が、彼女の人生を一変させる。
茂実との恋愛に溺れる蘭花だったが、やがて彼の裏切りを知る。
五年間の激しい恋の衝撃的な終焉。
蘭花の友人・留利絵の目からその歳月を見つめたとき、また別の真実が―。
男女の、そして女友達の妄執を描き切る長編。
"恋と友情"
いわゆる少女漫画における二大巨塔。
お涙頂戴的なストーリーになるテーマであるが。
本作はあくまで、"盲目的"であり。
"盲目的"との言葉から滲みだす不穏な雰囲気に"恋と友情"が飲み込まれる。
なんであっても、"盲目的"であるとロクなことはない。
構成は
第一部 恋
第二部 友情
との流れ。
同じ時間軸で時間が流れるため。
一つのストーリーを
①恋の主人公である一瀬蘭花の主観。
②友情の主人公である傘沼留利絵の主観。
でなぞる。
"盲目的である"二人が語る。
盲目的にのめり込んでいる人物の主観なんて、大本営発表みたいなもので当てにならない。
ただし、その主観を通してのみ私たちは物語を読む。
登場人物に感情移入する作品ではないと思う。
ただし、心の機微は丁寧に描かれる。
恋も友情も、誰しもが経験する事であり。
共感できる心理描写は所々に散りばめられている。
この辺りは辻村さんの作家としての特長である。
本作の魅力は主観が形成する物語の強さ。
主観とは、非常に不思議なもので。
個人にとって"主観はいつだって真実の正しい物語"である、と思う。
第三者の目から見てどんなに歪んだ物語でさえ。
主観は"真実の正しい物語"に変えてしまう。
そこに危うさがある。
本作は
恋に溺れた一瀬蘭花の真実の正しい物語であり
友情に盲執した傘沼留利絵の真実の正しい物語でもある。
だから物語に力があり、読者は引き込まれる。
登場人物への感情移入はなく。
キレイな物語でもない。
だけど刺激的な作品である。
なお、本作のキーパーソンとして。
"美波"たる蘭花と留利絵の共通の知人が登場する。
美波は二人の主観によって描かれるわけだが。
物語の中で、蘭花と留利絵を写す鏡のような役割を果たす。
その構図が深みを生み出している。