何者
就活。
SNS。
二つのテーマで若者を描く。
描かれるのは、行き場のない不安、である。
「何者」
良い作品。
僕自身は今、31歳であり。
もう少し下の世代にはドンピシャリの作品だと思う。
あらすじを引用。
就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。
光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。
瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。
だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。
直木賞受賞作。
自分自身が嫌な奴だと感じる瞬間。
誰しもが経験があると思う。
例えば、
他人の成功を素直に喜べない、など。
僕自身、自分の中の醜い感情、と対峙した経験は何度もある。
就活はまさに醜い感情が明らかになるもので。
"内定をもらっていない人"が"内定をもらった人"を素直に祝えるか?というと。
非常に複雑。
余程の大親友であれば話は別であるが。
ただのクラスメイト程度の存在であれば・・・
"よかったじゃん!!!おめでとー!!!"
との言葉を発する事は出来たとしたって。
自身に生まれるのは、焦燥感、だけである。
祝っていない、と言ったら嘘になる。
だけど。
心の中に蓄積する黒い影のようなものは確実に存在する。
認めたくはないけれど。
人間的なごく普通の感情、である。
本作は、"ごく普通の感情" が巧みに描かれている。
劇的、ではない。
でも、着実に淀みが溜まっていく。
若者たちが淀みに対してどう向き合うのか。
そこにSNSが絡んでくる。
ストーリーの起伏が激しい作品ではないが。
最後までの流れは実に丁寧でスムーズ。
さすが直木賞。
登場人物は主に5名。
それぞれが弱さを抱えている。
これがまた典型的な弱い若者、を描いていて。
正直な話、イライラする部分もある。
ただ、思うに。
自分自身にも社会の波に飲まれる前の自分は存在していて。
他人とは違う何か、になりたがっていた。
今の僕は彼らの弱さに一致はしないが共感する。
作品の中に限って言えば、彼らを愛する事は出来なかったが。
彼らの未来を愛する事は出来そうな気がした。