流浪の月 本屋大賞
"流浪の月"
タイトルが本書を読んだ後の感想を雄弁に物語る。
月明かりを眺める時、
人は何か物を思いにふけっている。
寂しくて、孤独が滲むような、そんな感覚。
月が滲ませる静謐なイメージが本作にはよく似合う。
小説とは、
名状しがたい感情に渦巻かれるもの。
感情を説明できないからこそ、読書の体験はやめられない。
・・・
本屋大賞受賞作品。
誰かにオススメしたくなる気持ちはわかります。
あらすじを引用
あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。
わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。
それでも文、わたしはあなたのそばにいたい―。
再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める。
新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。
とある誘拐事件の、
犯人と被害者の物語。
・・・
主人公である更紗は小学性の頃に、当時大学生であった文に誘拐される。
二ヶ月間に渡る誘拐。
ただ、誘拐は、どちらかと言えば、更紗自身の望みであったと言って良い。
更紗は誘拐される事で救われた。
それは読者ならば誰もが感じる事。
ただし、世間はそういう捉え方をしない。
誘拐者とされる文はいわゆるロリコンであり、幼児愛好者である。
(これは物語の中で語られる。)
幼児愛好者に誘拐された女児。
これを取り巻く報道。
そのストーリーがどのような語り口になるのかは言うまでもないだろう。
幼児愛好者の犠牲者である更紗、との固定観念が世間の捉え方となる。
本作は、その世間の目と、実際に更紗が感じた事の中で揺れ動く物語、である。
その揺れ動く中での語り口に読者は引き込まれる。
圧倒的に主観的な物語と思う。
それでも、文、わたしはあなたのそばにいたい
読者は、
この言葉に極端に主観的な盲信性を感じる。
ひどく、視野の狭い、盲目性。
ただ、その一方で・・・
それだけが、自分を救う唯一の方法であったとしたら?
闇の中で差し伸べられた手を信じるのではないか?
と思う。
完璧な客観性なんて存在しない。
人生の主人公はあくまでも主観である。
主観と客観の間で揺さぶられる物語。
心に響き、残る作品。