父について語る。猫を棄てる。
父について、語る時、
どうしても感情が篭る。
僕の中にある、内側の内側。
根底的であり、確固たる核心的な部分。
・・・
どうしたって、
ありがとう
との言葉しか思い浮かばない。
僕は父の影響を受けて、
本を読むようになったし、必死に勉強をした。
その延長線上に、今の僕はある。
父による影響をこの上ない程に受けている。
・・・
父と向き合う事は、
男であれば誰しもが経験する事であると思う。
それが、良い感情を想起するものであるか、
それとも、悪い感慨に浸るものなのかはわからないが。
男は誰しも父親の像と、
自分の生き方を重ねると思う。
細やかな力加減で作り上げて、
出来上がった和紙を大切に扱うように、
丁寧に、
そして、何も見逃さないように慎重に警戒をして。
「猫を棄てる」
あらすじを引用する。
時が忘れさせるものがあり、そして時が呼び起こすものがある。
ある夏の日、僕は父親と一緒に猫を海岸に棄てに行った。
歴史は過去のものではない。
このことはいつか書かなくてはと、長いあいだ思っていた。
―村上文学のあるルーツ
本作は村上春樹が父親について語った作品である。
すごく良い文章である。
村上春樹が優れた作家である事はこの作品を読んで再認識した。
”降りることは上がることより難しい”
との言葉に込められたメッセージは深淵を浮き彫りにする。
戦争と父親の事を語る村上春樹のエッセイ。
村上春樹を初めて読む人におすすめすることはないけれど。
どれか1作品でも村上春樹を読んだ事がある人になら、おすすめしたい作品である。