35歳になった春、彼は自分がすでに人生の折りかえし点を曲がってしまったことを確認した。
いや、これは正確な表現ではない。
正確に言うなら、35歳の春にして彼は人生の折りかえし点を曲がろうと決心した、ということになるだろう。
「回転木馬のデットヒート」
「プールサイド」との作品の冒頭部分である。
どう紹介するか、を考え、
頭を悩ませていたのだけれど、
冒頭の一文を紹介するのが一番しっくりきた。
・・・
「プールサイド」は、一人の男が人生に句読点をつける作品である。
そして、その歩いてきた道を思い、
確固たる理由もなく、明言できる何かがないにも関わらず、
涙を流してしまう小説である。
この小説は、
孤独な夜に一人で読むのが良い。
一人暮らしをしている男であっても、
人との関係性と空気感が薄まった時(例えば誰とも会わなかった日曜日の夜)に読むのが良いと思う。
内省的に、自分を見つめるような話であり、
孤独の中で読むべき本のように思える。
色々な立場の人がいる。
ある人は結婚して家族と暮らしていて、
それが幸せに思えているかもしれない。
だが、一方で、
家族の事を背負わされた十字架のようなものと思っている人もいる。
・・・
孤独な一人暮らしをしている人もいれば、
家族がいない事を自由と捉え、
自分の時間を満喫している人もいる。
・・・
ただ、どんな立場の人であっても、
今までの人生と、
これから続いていくであろう
(今までの人生からある程度は予想される)未来に対し、
虚無を感じる事はあると思う。
自分がどう生きたか(もしくは、どう生きていくか)に対して、
誰しもが、
完璧な満足感を得るのは難しいからだと思う。
それは、
人生は一度きり、との使い古された言葉に収斂されるのだけれど。
自分自身の人生は他の人は経験できない事であり、
他者の人生もまた経験する事ができないのである。
貴方の人生は貴方だけのものであり、
その中で得られるものも、得られないものも、
確実に存在するとの、
確信にも近い経験則によるものである。
どんな人生を送っている人であっても、
間隙を縫うように、
このように思う瞬間は訪れると思う。
本作の主人公もまた、
全てを手に入れたかのように見える男でありながら、
ふとした間隙に涙を流す。
人生で全てを得る事はできない。
だからこそ、
本作は心に残るのであろう。