「黒牢城」
あらすじを引用。
二人の推理が歴史を動かす。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の軍師・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。デビュー20周年の到達点。『満願』『王とサーカス』の著者が挑む戦国×ミステリの新王道。
これは面白い作品。
史実の空隙に作家が想像力を吹き込んだ。
その空隙における想像力の膨らませ方が尋常じゃない。
どのきっかけでこの物語構成を思いついたのか。
素直に驚く。
そして、そもそも米澤穂信さんは実力のある作家で、
紡がれる物語が面白い。
構成が秀逸、物語が面白ければ、自ずと秀作が生まれる。
本屋大賞等に選ばれて欲しいと感じたのだが、どうだろうか。
本作の主人公である荒木村重は織田信長を裏切る。
よって、
織田信長軍は、裏切りを翻意させる為、
黒田官兵衛とは、言わずと知れた天才軍師である。
と言えば、ピンとくる人もいるだろうか。
ここで、本作を読む上で、
史実を知っている・知らない、問題が発生する。
本作は、
米澤穂信という才気あふれる作家が、
史実を記した書物の行間に、物凄く想像力に富んだ設定を放り込んだ作品と言える。
そこに唸る。
その為、基本情報としては、
・信長を裏切って城に立て篭もった荒木村重
・幽閉された黒田官兵衛
の関係は有名な話である事を前提とした方が良い。
その上で、
本作では、その史実に対して、
・籠城中に起きる城の中での奇怪な事件
・事件を解決しないと籠城が内部から崩れる状況
との、
ミステリー的な要素を入れ込むのである。
土牢に赴く描写の雰囲気が似ている。
黒田官兵衛の鬼謀は凄まじく、
牢に入りながらも、言葉だけで牢番を殺す。
それは逃げる為ではなく、牢番が黒田官兵衛に暴行を働いた為、なのであるが、
殺した後
「牢の中からひとを殺すというのは、存外、難しいことではござらぬな。」
と、言い放つ。
わお!ハンニバルレクターかよ。
そこも含めると、
どうしても「羊たちの沈黙」との既視感があるのだが、
本作が秀逸なのは、史実の空白にそれを入れ込んだ事である。
さて、僕自身が本作の出来事を史実として知っていたのは
どのように書かれているのか気になって、
「新史太閤記」を読み直してみた所、
わずか18ページの出来事であった。
それを本作は400ページを超える大作として描く。
歴史小説の妙味は、
史実を踏まえて、どう切り取るかである。
誰かが斬首された、との史実に対し、
細い糸を手繰り寄せながら、斬首を解釈していく作業だと思う。
その意味では、
・・・
かけ離れている二つの出来事が作家の想像力によって結びつき提示された。
印象に残る作品となる事は間違いない。