健気であるのは良い事です。「あかんべえ」 宮部みゆき
"とにかくおもしろい。"
宮部みゆきさんの作品は、必ずそう言いたくなってしまう。
物語に没入させるのが巧み。
気づくと、物語の中に自分がいる。
小説の醍醐味は、この没入感である。
本書は、江戸時代の料理屋「ふね屋」が舞台。
「ほうほう、江戸時代の料理屋か。ならば、お蕎麦の話かな?」
と思ったら大間違い。
"お化け"の話である。
そう、料理屋ふね屋にお化けが出る話。
だからといって、おどろおどろしい話でもない。
一言でまとめるのならば・・・
SFファンタジー時代劇です。
あらすじを引用。
おりんの両親が江戸深川に開いた料理屋「ふね屋」に、抜き身の刀が現れ、暴れ出す。
成仏できずにいる亡者・おどろ髪の仕業だった。
その姿を見ることができたのは、おりんただ一人。
しかもこの屋敷には、おどろ髪以外にも亡者が住み着いていた。
「あたしは見た。はっきり見たのに――。だけど、みんなには見えなかった」。
あまりの不思議な出来事に衝撃を受けたおりんが、屋敷にまつわる因縁の糸を解きほぐしていくと、三十年前の忌まわしい事件が浮かび上がり…。
人間の心に巣食う闇を見つめながら成長していくおりんの健気さが胸に迫る。
怖く、切なく、心に沁みる、宮部ワールド全開の物語。
「あかんべえ」
主人公である少女おりんは、お化けの姿が見える!!!
しかも、おりんだけが見える、のである。
※正確には、他にも見える人は出てくるのだが。
実に、珍妙な話である。
さて、そのお化けであるが。
若干、お化けと言われてイメージする奴らと異なる。
僕のお気に入りである、玄之助たる侍のお化けとおりんが出会ったワンシーンを引用する。
たとえ相手が半分透けていても、美男子だったらあんまり怖くはないものだ。
そんなことを言うと美男子ではない人には悪いけれど、まあ世の中そういうものだ。
おりんはそうっと下から投げあげるようにして呼びかけた。
「お侍さま、お化けですか?」
「うん」と、階段に腰かけた人は言った。
「よくわかるね。感心感心」
なんだか気楽そうなお化けである。
お化けのぬるさが魅力である。
全体的に友達感覚でお化けが出現する。
(あくまで、おりんにとってはの話であるが。)
さて、このお化け。
何人か出現するのだが・・・。
なぜ、お化けになってしまったのか?がわからない。
よくわからぬが、この世に留まってしまっている。
つまり、何故か、成仏できないのである。
・・・
そんなお化けたちを見て、おりんは成仏させてあげたい!と思う。
ただ、一方で、成仏されるのが幸せなの?と問われると答えに窮して迷う。
本書は、少女 おりんの健気な物語である。
健気な物語ってのは、日本語としておかしな気もするが。
読めばわかる。
おりんの健気な奮闘ぶりには胸がキュンとする。
健気であるってのは、幼少期のみに宿る唯一無二の特性で。
人は健気である者を味方し、応援し、助けたくなる。
少女おりんの健気さは心に沁みる。
風鈴の音に、心が洗われるような気持ち。
読みやすく軽快。
物語の中に没入しつつ、おりんちゃんの健気さに胸震える。
願わくば、おりんちゃんのような子に出会いたいもの。