一度は疑われるべき多数決。「多数決を疑う」
シンプルで言いたい事がはっきりしている新書は良い。
テーマは"多数決"。
「多数決を疑う」
〜社会的選択理論とは何か〜
坂井豊貴
著者の立ち位置を引用する。
多数決ほど、その機能を疑われないまま社会で使われ、しかも、結果が重大な影響を及ぼす仕組みは、ほかになかなかない。
タイトルにある通り、"多数決"に懐疑的である。
そもそも、多数決は、多くの人が集団生活に伴い何度も経験してきた仕組みであろう。
"修学旅行は北海道に行くか?沖縄に行くか?多数決で決めます。皆さん、考えておいて下さい。"等と、なじみのある風景であろう。
僕自身も多数決には懐疑的である。
何故なら、少数派になる事が多かったからだ。
※これは、あまのじゃくな性格と、比較的日陰を好む性格による。
※決してロックンロールスターの幼少期みたいな話ではない。
少数派になれば、必然的に負け戦となる。
いまいち多数決たるシステムがお気に召さない。
そんなわけで、"ふふふ、多数のバカが集まった所で多数決を取れば、バカな決定が下されるものよ。"と斜に構えていた。(そうすれば、少しは気が晴れる。)
ただ、これはある意味正論で。
おそらく、誰もが"多数派"が常に正しいとは限らないとの意味で、多数決を疑った事があるのではないか?
ヒトラーが選挙によって選ばれた、なんて話を持ち出すまでもなく。
皆さん、人生で一度は多数派の数の暴力でねじ曲げられた結論の被害に遭っているであろう。
(そんな時に、"ほらみろ、言わんこっちゃない。"とつぶやく自分に自己陶酔した事があるに違いない。)
そんなわけで、本書を読み始めた時、同じ意見だぜ!と軽い気持ちで読み始めたのだが・・・
衝撃的なぐらい立ち位置と視点が全然違った。
本書の"多数決を疑う"は・・・
多数派を疑っているのではない!
多数派の意見が反映されないから多数決を疑っているのである!
つまり、筆者は"多数決が必ずしも多数派の意見を反映するものではない。"と説明する。
"はあ?"と思ったあなた。本書を読む事をお勧めする。
100%。ああ、確かにね、と納得する事を保証する。
簡単な話なのである。
例えば、先ほどの"修学旅行先"を決定する多数決。
北海道、沖縄の他に、九州が選択肢にあるとする。
仮に、 60%の生徒が暖かい南方を第一条件としているとしよう。
つまり、沖縄 or 九州に60%の多数派が
・・・
もうお判りだろうか?
結果的に。
北海道・・・40%
沖縄・・・30%
九州・・・30%
多数決の結果、旅行先は"極寒の北海道に決定しました!パチパチ"なんて事がまかり通るのである。
多数派は暖かければ何でも良いと思っている。
そうすると・・・
・北海道VS沖縄ならば、沖縄が60%の支持で勝利。
・北海道VS九州ならば、九州が60%の支持で勝利。
なのに、三つ巴になると、北海道が勝利するとの不思議な現象が多数決では起こり得るのである。
これは多数決のマジック。
そして、実際にこのような現象が起きた例として、アメリカ大統領選(ブッシュ・ゴア・ネーダー)の例が紹介される。
本書を読むと、よく政治家が"我々は民意によって選ばれたのだ。"と語っているのが、必ずしも真ではない事がわかる。
ただし、現状の制度で選ばれているのだから、言いたくなる気持ちはわかるが・・・。
本書は特に、政治学を学ぼうとしている人を対象としていると思うが・・・
僕としては、選挙システムの中にいるすべての人が読むべき本だと考える。
更に、本書の内容は義務教育の中で取り入れられるべきでは?とすら思う。
多数決を疑いなく取り入れる土壌は、間違いなく義務教育によって培われたものと感じるからである。
一度は疑ってみても損はないはずである。