のらねこ日記

読書、映画、考え事など。色々なテーマを扱える人になりたいです。

虚構の真実を追い求める物語。「ユージニア」

「ノンフィクション?あたしはその言葉が嫌い。事実に即したつもりでいても、人間が書くからにはノンフィクションなんてものは存在しない。ただ、目に見えるフィクションがあるだけよ。目に見えるものだって嘘をつく。聞こえるものも、手に触れるものも、存在する虚構と存在しない虚構、その程度の差だと思う。〜。」

 

P19から引用。

物語の核心をつく、非常に印象的な言葉であった。

そう、本書は虚構の真実を追い求める物語。

物語の虚構は崩れ去り、あなたの真実が再構築される。

ただし、答えは明示される事はない。

 

先に言っておくと、白黒がはっきりしないと気が済まない人にはオススメしない。でも、世の中に白黒はっきりする事なんて、滅多にないと思う。

世の中は意外な程、灰色な事が多いものだ。

 

「ユージニア」

著者 恩田陸

 

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あらすじ。

ある名家が主催したパーティーで大量毒殺事件が起きる。

17人もの人が亡くなった悲惨なる事件。

犯人と思われる男が自殺し、事件は表面上は解決したが、多くの謎を残したままであった。

そして、数十年の時を経て、再び事件の事が語られる。

 

登場人物の一人一人が当時の記憶を独白する形。

読者は、各パートの語りを読みながら事件の細部を読み取っていく。

事件が再構築されるプロセスに読者は完全に引き込まれる。

吸引力が尋常でない事を保証する。

 

・いったい誰がなぜ、無差別殺人を?

 

事件の関係者が壮絶なる記憶を呼び起こす中で、見えてくる新しい事件の真相。

真実とは何か?

浮かび上がってくる一人の人物。

それは、無差別殺人がおきた名家で一人生き残った女の子。

青澤緋紗子である。

 

彼女は文中でこう表現される。

立派なお屋敷に住むお嬢様。彼女はそれがぴったりだった。

本当に、本当に下世話で無神経な感想だけど、惨劇の後ですら彼女にはそれが似つかわしかった。

悲劇の生き残り、それが彼女の役に似合っていた。

誰も口にしなかったけど、近所の子供たちは、心の中で同じことを考えていたと思う。

憧れの彼女は、悲劇のヒロインにふさわしかった。

青澤緋紗子とは、一体、なにものか?

そして、事件と何らかの関わりがあったのか?

あの大量毒殺事件はなんだったのか?

読み始めれば、どんどん次を読みたくなる。

掛け値なしにおもしろい。

 

さて、最後に、本書は"真実"について核心をついた作品だと思う。

 

こういう言い方になる。

各パートの語り手は皆が"真実"を語っている。

だけど、その全てを集めて構築されたものが"真実"であるとは限らない。

つまり、各登場人物の主観的には真実であっても、それが"あなた"が思う真実であるとは限らないのである。

あなたが思う"この事件の真実"とは何であろう?

 

恩田陸さんの小説は人を夢中にさせる力がある。

他の事が手付かずになる可能性があるのでご注意を。