本屋大賞の作品は面白い。
直木賞の作品は面白い。
そりゃ面白いに決まってますよ。
アカデミー賞 全部門受賞作品!!!!
みたいな感覚だと思いますがね。
「蜜蜂と遠雷」
著者 恩田陸
音楽の話。
ピアノコンクールが舞台。
群像劇である。
視点が次から次へと移り変わる構成。
登場人物が魅力的。
一人紹介する。
(同じように魅力的なストーリーを持つ人物が何人もいます。)
天才ピアニストの栄伝亜夜。
彼女は子供の頃から天才少女としてピアノを弾いてきた。
ただ、13歳の時に母親が突然死去してからピアノが弾けなくなっていた、との経歴を持つ。
母親の死後、最初のコンサートで彼女は逃げ出した、のである。
母を喪い音楽も失った天才少女。
コンサートをドタキャンした彼女は「消えた天才少女」として有名になった。
何故、彼女が再びコンクールに参加する気になったのか?との点はさておき。
(実は本人はコンクール参加に乗り気ではない部分もあるのだが)
"消えた天才少女"が再び表舞台に現れたのだから、世間の目は冷ややかで好奇的。
彼女が復帰したコンクールで初めてピアノを弾く前の嫌な緊張感を表現した文を引用する。
天才少女の復活、あるいはその成れの果てを目撃しようと待ち構えている、この悪意と意地悪な期待に満ちた観客の視線。
・・・
そんな中、栄伝亜夜は帰ってきた。
コンクールで弾き始めた瞬間の表現を引用。
彼女が弾き始めたとたん、会場全体が覚醒し、同時に居住まいを正したところが見えたような気がした。
モノが違う。
天才少女の復活、とのストーリーは心のグッとくるものあり。
ただし、栄伝亜夜はそれだけでは止まらない。
復活?再生?帰還?
・・・
違う、覚醒である。
天才の覚醒。
天才少女がコンクールで覚醒する物語。
覚醒の理由はもう一人の天才ピアニストである風間塵の影響が大きく。
天才が共鳴して高みに登る。
もうこのストーリー展開がたまらない。
革命的なドラマティックさが内包された鮮やかで美しい物語が紡がれる。
覚醒した彼女をこう表現する。
一音一音にぎっしりと哲学や世界観のようなものが詰めこまれ、なおかつみずみずしい。
それらは固まっているのではなく、常に熱く流動的な想念が鼓動している。
音楽それ自体が有機体のように「生きている。
彼女の演奏を聴いていると、はるか高みから睥睨する高次の存在を感じてしまう。
彼女自身がピアノを媒体とした巫女か依代のようなものなのだ。
彼女を使って誰かが「弾いて」いる。
そんな気すらしてくる。
本作の魅力は”音楽を文章で巧みに表現している事"
"音楽が聴こえてくるみたい"とはよく言ったもので。
"音楽の感動と高揚感をダイレクトに体験しているかのような錯覚に陥る"。
本作は読んでいて、ワクワクする。
そう。本作はワクワクする物語である。
おすすめしたいと思った人の多くはこのワクワク感にやられていると思う。
例えるなら、大好きなものがいっぱい詰まった部屋の扉を開けようとしているかのような圧倒的高揚感。
焦燥感が入り混じった感情を呼び起こす。
そもそも恩田陸さん自体が小説に引き込むのが実に巧みな作家さんである。
作品が醸し出す世界観だけで人を本の虜にできる作家である。
夢中にさせるのがお上手な作家さんNo.1は恩田陸さんだと思う。
僕は、恩田陸さんの本を少年/少女時代に読んだ人は大人になっても本を好きなのではないか?説、との自論を密かに持っているくらいである。
おすすめしたくなりますよね、そりゃ。
P.S
なお。
(観た人しかわからないので申し訳ないが)
映画「ララランド」のテンポの良さワクワク感が非常に似通っている。
あの雰囲気を小説で味わえるの?!
と思うでしょう。
読んでみれば言っている事がわかります。
「読むララランド」と表現するのとわかりやすいかもなぁ。