蒼穹の昴
広大で壮大。
中国を舞台にした物語は何故、かくも大きいのだろう。
心に強く残る。
「蒼穹の昴 1〜4」
再読である。
記録によれば2012年に読んでいるので、5年ほど前。
三国志以外の中国小説で最も鮮烈なイメージを残した小説かも知れず。
前々より再読すべしと思いて、ようやく読めた。
あらすじを引用。
極貧の少年に与えられた途方もない予言 そこに「希望」が生まれた
魂をうつベストセラー大作待望の文庫化!
汝は必ずや、あまねく天下の財宝を手中に収むるであろう――中国清朝末期、貧しき糞拾いの少年・春児(チュンル)は、占い師の予言を信じ、科挙の試験を受ける幼なじみの兄貴分・文秀(ウェンシウ)に従って都へ上った。
都で袂を分かち、それぞれの志を胸に歩み始めた2人を待ち受ける宿命の覇道。
万人の魂をうつベストセラー大作!
もう引き返すことはできない。
春児は荷台に仰向いたまま唇を噛んだ。
満月に照らし上げられた夜空は明るく、星は少なかった。「昴はどこにあるの――」誰に訊ねるともなく、春児は口ずさんだ。声はシャボンのような形になって浮き上がり、夜空に吸いこまれて行った。
途方に昏(く)れ、荒野にただひとり寝転んでいるような気分だった。
「あまた星々を統べる、昴の星か……さて、どこにあるものやら」老人は放心した春児を宥(なだ)めるように、静かに胡弓を弾き、細い、消え入りそうな声で唄った。――<本文より>
中国を舞台にした小説。
歴史的出来事に沿って物語が進んでいく。
時代は清朝の末期。
日本に言い換えると、明治維新が云々の後頃である。
大きな流れとして、欧米列国の植民地化が世界を飲み込んでいる時代。
眠れる獅子と恐れられた中国であったが欧米からの搾取対象であった。
代表的な出来事であるアヘン戦争について語るまでもない。
そんな時代背景の中、本作は二人の若者を中心に描かれる。
・貧しき糞拾いの少年 春児
・科挙の試験を受ける文秀
彼らは元々の幼馴染である。
※科挙とは?
簡単に補足をすると、中国全土からエリートを集めて行う超難関試験である。
受かれば一族は安泰とさえ言われるもの。
時代の大きなうねりの中で生きる若者、との題材は胸を打つ。
加えて、中国を舞台とした壮大さが物語をよりダイナミックなものにしている。
本作は史実に生命感が吹き込まれた作品である。
浅田次郎さんの想像力で史実に物語性を帯びさせ、エンターテイメントとして昇華させている。
教科書の字面にて知った無味乾燥な人物名が一気に生命性を帯びる。
間違いなく教科書の100倍面白い事を保証する。
中国は広大な大地と重すぎる歴史がある。
そして、激しすぎる時代の変化に直面していた。
その中で翻弄される若者たちの志。
時代を切り拓くのあくまで個人の意志に裏付けられたエネルギーよるものだと感じる。
ちなみに本作はシリーズ化しており、以下のホームページで紹介されている。
中国現代史を描いた小説の中で傑作の一つであると断言できる作品にて。