短編の良さ 満願
短編は難しいと思う。
具体的に。
圧倒的に印象に残らない事が多い。
読んでいる時間が短いのだから当たり前ではあるが。
小説を読む、とは世界観に浸る行為でもある。
読者を夢中にして離さない=浸る事ができる小説、と言い換えてもいい。
短編は短いが故に、世界観に浸れずに終わる、場合が多い。
なので、僕の中で良質な短編集とは、"確固とした世界観を持っている事"が挙げられる。
浸れる作品。
作品に匂いがある短編と言い換えてもいいだろう。
僕が短編で最も印象に残っているのはスティーブンキングの「刑務所のリタ・ヘイワース」である。
かの有名な「ショーシャンクの空に」の原作。
僕自身は、映画を観た上で、知らずに読んだ。
「あれ?この話どっかで聞いたような・・・」
「あっ!!!ショーシャンクの空にじゃん!!!」
と、大発見である。
僕自身は小説を映画が凌駕した作品だと思う。
原作を読むと映画が楽しくなくなるジレンマを完全に打ち破った稀有な例。
なぜか・・・?と考えた時。
「刑務所のリタ・ヘイワース」が短編だったからではないか?と思っている。
つまり、”原作にはこのシーンがあったのに〜”的なモヤモヤが発生しない。
原作を忠実に表現すると映画ってのは4時間を優に超えてしまう。
だから、削って削ってを繰り返すのだと思うが、誰もが納得する削りなんて存在しないのである。
必ずや、原作至上主義者の反撃にあう。
短編だとそれがない。
つまり、短編は映画化しやすいと思う。
なので、短編を読む時に映画化できるだろうか?との目線で読む事も多い。
先の話につなげると、世界観のある短編は映画化しやすい、となる。
逆に言えば、映画化できそうな短編は世界観があって良作との見方もできるのである。
さて、短編集の前編を映画化できそうな驚愕の小説を紹介する。
「満願」
ストーリーを引用。
人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とは――。
驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、フリーライターなど、切実に生きる人々が遭遇する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジック。「日常の謎」の名手が描く、王道的ミステリの新たな傑作誕生!
これは抜群に面白い。
特筆すべき点は収録されている6作品が全て映画化できる程の密度を持っている事。
しかも、別々の匂い、違う作風で。
僕は本作を何も知らずに読んだら、様々な作家のオムニバスであると勘違いするかもしれない。
他の作品は読んだ事がないが、着目に値する。