豪奢な文章といえば、僕は三島由紀夫さんを思い浮かべる。
金箔を塗したようなものではない。
まさに純金の華やかさと重さが三島由紀夫さんの文章にはある。
文章を評するのは恐れ多いのだが、そんな感想を抱いてきた。
ゆえに、三島由紀夫さんの本を読むには、豪奢な金と向き合うだけの気力がなければならない。
・家で、ポテトチップスを食べながら読んではならぬ。
・読むならば、正座してお茶を飲みながら、である
そんな心構えである。
だが、本書はそこまで敷居が高いものではない。
レター教室、と題され、終始、手紙のやり取りのみでストーリーが進む。
登場人物は5人。
5人が各々、手紙のやり取りをする話である。
手紙形式以外のものは一切出てこない。
「レター教室」
そんなので話が成立するの?とお思いか?
成立するのです。
且つ、絶妙なのです。
あらすじを引用。
職業も年齢も異なる5人の登場人物が繰りひろげるさまざまな出来事をすべて手紙形式で表現した異色小説。
恋したりフラレたり、金を借りたり断わられたり、あざけり合ったり、憎み合ったりと、もつれた糸がこんがらかって…。
山本容子のオシヤレな挿画を添えて、手紙を書くのが苦手なあなたに贈る枠な文例集。
手紙は良いものである。
本書を読むと、手紙を書きたくなる。
粋な文例が続く。
自分も書いてみようかしらん、と思えるのが本書の良い所。
とかく、手紙を書きたくなるような本は良本である、ってのが僕の持論。
現代社会では、メールのやり取りばかりが増える。
近年、LINEたるものが出現し、やれ既読だ、スルーだと騒ぐ。
手紙たるものは、郵便ポストに入れたきり。
・届くのに何日もかかる。
・届いたところで、すぐに反応がない。
なんと不便な!!!と思うやもしれぬが・・・
一度受け取ってみれば、良さを知る。
開封する喜びにおいて、手紙に勝るものはない。
せっかくなので、筆者が手紙を表した文章を引用しておく。
万事電話の世の中で、アメリカではすでにテレビ電話さえ、一部都市では実用化していますが、手紙の効用はやはりあるもので、このキチンと封をされた紙の密室の中では、人々は、ゆっくりとあぐらをかいて語ることもできれば、寝そべって語ることもでき、相手かまわず、五時間くらいの独白をきかせることもできるのです。
そこでは、まるで大きなホテルの客室のように、もっともお行儀のいい格式張った会話から、閨のむつ言にいたるまで、余人にきかれずにかわすことができるのです。
本書の内容は、主に恋愛模様である。
中でも、氷ママ子たる人物が面白い。
文中の紹介では・・・
これがもっとも始末の負えない人物です。45歳の、かなり肥った、堂々たる未亡人で、元美人。
氷ママ子たる人物のキャラクターが目に浮かびます。
本書のテーマは嫉妬だと思う。
元美人である中年おばさんの氷ママ子が、若い女性に嫉妬する。
内容が恋愛模様で、嫉妬がテーマといえば、イメージはつくだろう。
絵に描いたような愛憎劇が想像される。
まさにThe 嫉妬。
手紙で読む嫉妬劇だから、更に面白いのである。
何故なら、激情に駆られてもあくまで手紙。
嫉妬を源泉とする怒りに震える気持ちを筆に込めて、手紙を書く。
相手が目の前にいたら、往復ビンタをしているのでは?との勢い。
この図を想像するだけで面白い。
秀作と言えるのではないだろうか。