「キネマの神様」原田マハ
"この小説を読み終わると、映画館に行きたくなります。"
これは一つの小説を例える上で、最大の賛辞ではなかろうか。
映画館に行きたくなる小説。
もしくは、映画が好きになる小説。
大げさではなく。
本の最後のページを読み終わった瞬間に、映画館へ足を向けたくなる。
この事だけで、充分本書の魅力を語れている、と思っている。
あまりつべこべ語るとイメージも湧きづらいに違いない。
シンプルな言葉の方が胸に届く事もある。
もう一度、繰り返す。
"この小説を読み終わると、映画館に行きたくなります。"
映画を愛する人たちの話。
シンプルなメッセージはスッと心に染み入るもの。
「キネマの神様」
僕自身も映画館は好きである。
作中。
「人間が人間である限り、決して映画館が滅びることはない」
との言葉がでてくる。
人間は娯楽を求める生き物で。
映画館は娯楽を追い求めた結晶のようなものだ。
断言してもいい。
僕は家のTVでは、映画館のような感動は得られない。
ましてやスマホなんてもってのほか。
映画館には力がある。
わざわざ居心地の良い家を出て、お金を払ってまで映画館に引き寄せられる力が。
その力を小説として見事に描いた作品が、「キネマの神様」である。
ストーリーを引用。
39歳独身の歩は突然会社を辞めるが、折しも趣味は映画とギャンブルという父が倒れ、多額の借金が発覚した。
ある日、父が雑誌「映友」に歩の文章を投稿したのをきっかけに歩は編集部に採用され、ひょんなことから父の映画ブログをスタートさせることに。“映画の神様”が壊れかけた家族を救う、奇跡の物語。
映画にノスタルジーを感じるのは僕の世代までだろうか。
映画には色々な思い出があって。
友達と、恋人と・・・
今もなお、思い出は増えていくが。
どうも映画と言われて思い出すのは。
親に連れられて、初めて映画館で映画を観た「ジュラシックパーク」だったりするんだよなぁ。
あれは、映画館に足を運んだが故、である。
そんなわけで、映画×家族は相性がいいと思う。
映画?
DVDレンタルすればいいじゃん!
安いし、楽だしさ〜
・・・まぁまぁ、そう言わずに映画館に行きましょうよ。
さて、最後に、本書。
冒頭が秀逸であると思うため、引用する。
僕は冒頭の文章により吸い込まれた。
原田マハさんの言葉が好き。
暗闇の中にエンドロールが流れている。
ごく静かな、吐息のようなピアノの調べ。真っ黒な画面に、遠くで瞬く星さながらに白い文字が現れては消えていく。
観るたびに思う。映画は旅なのだと。
幕開けとともに一瞬にして観るものを別世界へ連れ出してしまう。名画とはそういうものではないか。そして、エンドロールは旅の終着駅。訪れた先々を、出逢った人々を懐かしむ追想の場所だ。だから長くたっていい。それだけじっくりと、思い出に浸れるのだから。
最後の一文が消え去ったとき、旅の余韻を損なわないように、劇場内の明かりはできるだけやわらかく、さりげなく点るのがいい。
座席も通路も、適度な高さと角度。ドアや幕は、落ち着いたデザインで。劇場のすべてが帰ってきた旅人を暖かく迎え入れるように。
こんな言葉から始まる素敵な映画の小説。
くどいようだが。
"この小説を読み終わると、映画館に行きたくなります。"
おすすめできる本である。