僕らだけの言葉 「サラバ!」西加奈子さん
"僕らだけの言葉で話そう。"
親密な二人は自分たちだけの言葉を持っている、と思う。
もちろん、それは言語的な話ではなく。
雰囲気を纏った言葉、というべきか。
体験を伴った言葉であり、思い出を象徴する言葉、である。
二人にしか意味を見出せない言葉、とも言える。
具体的に言うならば。
・秋葉原
・北の国からのモノマネ
・オプション
これが、僕にとっての、僕らだけの言葉、である。
意味不明で当然。
この"僕らだけの言葉"に意味を見出せる人間は地球上に一人しかいない。
ただ、その唯一の人物は確実に意味を感じ取る事ができる。
情景であったり、匂いであったり。
その僕らだけの言葉との親密であるが故に生まれるものであり。
共有した体験が象徴的な言葉によってフラッシュバックされる、とも言って良い。
と、ここまで続けてきたのだが。
そろそろ言葉の定義も完了したと思うのでこの辺で。
「サラバ!」
"僕らだけの言葉"の小説である。
言い換えて。
"僕らだけの言葉"を想起した時の感情を鮮やかに蘇らせてくれる小説、である。
つまり、親密な誰かを思い出す小説。
大切な誰かの思い出を象徴する何かについて考えたくなる小説。
とびきり暖かい気持ちになる小説である。
あらすじを引用。
累計百万部突破!第152回直木賞受賞作
僕はこの世界に左足から登場した――。
圷歩は、父の海外赴任先であるイランの病院で生を受けた。その後、父母、そして問題児の姉とともに、イラン革命のために帰国を余儀なくされた歩は、大阪での新生活を始める。
幼稚園、小学校で周囲にすぐに溶け込めた歩と違って姉は「ご神木」と呼ばれ、孤立を深めていった。
そんな折り、父の新たな赴任先がエジプトに決まる。メイド付きの豪華なマンション住まい。初めてのピラミッド。
とある男の子が大人になるまでの小説。
少々長いが、西加奈子さんの語り口は面白いので苦にならない。
主人公の名前は圷歩。
彼の家族、人生、恋人の物語。
彼の人生には色々な事があり、ありすぎて語り尽くせないのだが。
猟奇的な姉の人生がかなり面白い。
もうとんでもない方向へ次から次へと転じる。
回転を加えたスーパーボールをおもいっきり投げつけた結果のように、どこに飛んでいくのかわからない人生。
呆気にとられるのは間違いない。
弟である主人公の歩は、まあその猟奇的な姉に人生を掻き回される。
洗濯機どころの掻き回し方ではない。
超大型で強大な勢力を持った台風が家庭内にいるようなもの。
本当にこんな姉がいたら・・・と考えるとゾッとする。
と、まあ、こんな感じで歩くんの非常に大変な人生が語られていく小説、である。
そして、先にも申しました通り。
彼の人生を語る中で、自分の人生における大切なものを思い出してく。
それが、読者にとっての"僕らだけの言葉"を呼び起こす小説である、の意味。
世間的にも話題になったので読んでみたが、素晴らしい作品であった。
西加奈子さんの作品は全て読んでいるわけではないのだけど。
登場人物への愛が滲み出ている気がする点がすごく良い。