のらねこ日記

読書、映画、考え事など。色々なテーマを扱える人になりたいです。

夢をみせる存在 「武道館」朝井リョウ

直球。

ストレートに刺さる、言葉と物語。

 

「武道館は人は、人の幸せを見たいんだって、そう思わせてくれる場所だよ。」

 

「武道館」と題された本作を紹介する上で、この一文を紹介せずにはいられない。

 

人の幸せを願うって、単純であるが実はすごく難しかったりする。

"嫉妬"とか、誰しもが持っているし。

自分の中の奥の奥の裏側に、

"人の不幸を願っているような"

そんな自分がいる事くらいわかっている。

僕は、悪魔ではないけれど、天使でもない。

そんな自分と向き合った時に。

"人は人の幸せを見たいんだって、そう思わせてくれる場所だよ。"

との一文は、

スポンジが水を吸収するかのように、心に吸い込まれていく。

 

「武道館」

朝井リョウ

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あらすじを引用。

 

【正しい選択】なんて、この世にない。

結成当時から、「武道館ライブ」を合言葉に活動してきた女性アイドルグループ「NEXT YOU」。
独自のスタイルで行う握手会や、売上ランキングに入るための販売戦略、一曲につき二つのパターンがある振付など、
さまざまな手段で人気と知名度をあげ、一歩ずつ目標に近づいていく。

しかし、注目が集まるにしたがって、望まない種類の視線も彼女たちに向けられる。

「人って、人の幸せな姿を見たいのか、不幸を見たいのか、どっちなんだろう」
「アイドルを応援してくれてる人って、多分、どっちもあるんだろうね」

恋愛禁止、スルースキル、炎上、特典商法、握手会、卒業……
発生し、あっという間に市民権を得たアイドルを取り巻く言葉たち。
それらを突き詰めるうちに見えてくるものとは――。

「現代のアイドル」を見つめつづけてきた著者が、満を持して放つ傑作長編!

 

アイドルの物語である。

別に僕はアイドルの追っかけではないのだが。

かなり楽しめる(と言うか、突き刺さる)作品であった。

朝井リョウさんって、突き刺すのがうまいなぁ、と思うのである。

 

本作の主人公は、愛子。

NEXT YOUとのアイドルグループで活動する女の子である。

ただ、踊って歌うのが好きな普通の女の子・・・。

 

アイドルには偶像、との意味がある。

偶像崇拝は人にとって精神安定剤のようなもので。

そこに人々は拠り所を見つけて、夢をみる。

でも・・・

"こうあるべき"とか、"こうあってほしい"を押し付けられるのは、すごく重たい事で。

重圧、と呼ばれる魔物が人を飲み込んでしまう。

 

僕はアイドルについて、あまりよく知らないが。

何かの折に、彼女らを見る度に、背負っているものの大きさに感嘆する。

誰かの夢をみせる存在になる、とは、簡単な事ではなく、ただただ重い。

 

普通の女の子が、それを背負う。

そこに本作が心に刺さる理由がある。