小説の境地。
酒は止めたけれども、
何もする気にはなりません。
仕方ないから書物を読みます。
然し読めば読んだなりで、打ち遣って置きます。
私は妻から何の為に勉強するのかという質問を度々受けました。
私はただ苦笑していました。
然し腹の底では、世の中で自分が最も信愛しているたった一人の人間すら、
自分を理解していないのかと思うと、
悲しかったのです。
理解させる手段があるのに、理解させる勇気が出ないのだと思うと益悲しかったのです。
私は寂寞でした。
何処からも切り離されて世の中にたった一人住んでいるような気がした事も能くありました。
言わずと知れた、古典。
夏目漱石の「こころ」からの引用である。
「こころ」
何度読んだ事か。
それでもなお、再読する2022年。
懊悩の深淵に触れて、涙する。
なんでもないような時、
電車の中で涙が止まらなくなった。
今更?と思ったのだけれど、
その寂寞の深さ、果てしなさ、苦しさ。
世の中でただ独り自分が理解されない存在であると、
思い込んだその時の絶対零度の如き孤独。
生きていると小説の読み方が変わると、
よく言われるものだが。
何度も読むべき小説である事は間違いない。
玉虫色に生き方を反映しながらも、
人間が深く迷い込む思想の境地に達している。
改めて書評をしたいもの。
懐かしい。
高校生の頃、夏休みの課題図書として読んで、衝撃を受けた事を思い出す。